「知ってますか?認知症」
第3回 認知症の人の思いを知るーその2

公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

               川崎幸クリニック院長 杉山孝博

 認知症の人と家族の会では、2002年に会員に対して「家族を通じてぼけの人の思いを知る調査」を実施しました。認知症の人の言葉を介護者がどのように感じたかを尋ねたところ、全国から624通の回答が寄せられました。

「認知症になったら、何も分からなくなり、できなくなる」「人間性が失われてしまう」「困った事ばかりする人だ」—―多くの人が持っていた認知症に対する、このようなイメージを大きく変える調査結果でした。もの忘れや判断力の低下があっても、普通の人と同じように、喜怒哀楽の感情も、相手への思いやりも、プライドも持っていることがよくわかりました。認知症になっても心は生きているのです。

オレンジパートナーの皆さんにもぜひ知っていただきたいと思います。

僕にはメロディがない 和音がない 響鳴がない

頭の中に いろんな音が 秩序を失って 騒音を立てる

メロディがほしい 愛のハーモニーがほしい

この音に響音するものはもう僕から去ってしまったのか

力がなくなってしまった僕はもう再び立ち上がれないのか

帰ってくれ僕の心よ 全ての思いの源よ

再び帰ってきてくれ あの美しい心の高鳴りはもう永遠に与えられないのだろうか

いろんなメロディがごっちゃになって気が狂いそうだ

苦しい 頭が痛い

 この文章は、福岡県の岩切健さんがアルツハイマー病発症2年後の55歳のころにかかれたものです。認知症が徐々に進行していることに対する不安な思いや混乱が見事に表現されています。「認知症と診断されたら、何もできなくなり、わからなくなる」「人間性も失われてしまう」と、多くの人は考えがちですが、決してそうではないことがこの文章からよくわかると思います。

夕方になるといつも泣き出していた。なぜ悲しいのかと聞くと、「こんなにバカになってしまって…」という言葉が返ってきた。また、近所に一緒に出かけると、人が通りかかると、もの陰に隠れようとしていた。「こんなにバカになった姿を他人に見られたくない」、そんな言葉が返ってきた。

本人の思いの中で、最も中心になるのが「物忘れ」です。一般に考えられている以上に、本人は物忘れなどを自覚しており、「(私は)呆けてしまった」「頭がおかしい」「だんだん進んでいく気がする」「何もできない」と感じています。

 「家族を通じてぼけの人の思いを知る調査」に、介護中、または看取った家族、624名からの回答がありました。その中から、本人の気持ちが記載されている部分を抽出したところ、473場面・出来事に上りました。本人自身におきている変化が記述されているのが、143ヶ所で、その中で、「物忘れに対する恐怖」に関する記載が最も多くて54ヶ所でした。

 物忘れによる不安・混乱が出てくると、「迷惑をかけたくない」「いらいらする」「調子が悪い」などという気持ちにつながってきます。

トイレに連れて行こうとしたが、少し便がゆるくなり、パンパースの中にしてしまいました。風呂で、主人も手伝ってくれ、きれいにふいていたところ、「○○ちゃん(主人のこと)、すまんのう」と言い、泣き出しそうな声でわびてくれ、介助している私も思わず涙ぐみました。感謝の念の強い父でした。

一方では、自分の「病気のことがもっと知りたい」と言う……

※この記事の全文はホームページ上部の「活動紹介・インタビュー・提言」コーナーでご覧ください

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